フェアトレードの可能性と生活改善による貧困削減 -まるまるマラウイ-

マラウイで地域おこしに携わっていた2008~2010年のブログ ”まるまるマラウイ~素顔のアフリカ~” のリバイバルシリーズをお届けしています。

ネガティブなイメージの強いアフリカの明るい面を伝えるとともに、初心を思い出して今に活かすという意味も込めて・・・♪

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フェアトレードの可能性と生活改善による貧困削減

2009/03/25(水)

 

昨日、アジア経済研究所の佐藤寛さんの
セミナーに参加してきました。

佐藤さんは途上国援助の社会的影響などの研究を
専門とされる社会学者でこの業界ではとても有名な方です。

最近はフェアトレードの調査も始められたそうで、
今回はフェアトレードや一村一品運動に関する調査のために
イギリス、ケニア、マラウイを訪問する途中で、
ついでにマラウイ在住の隊員やJICAスタッフ向けにも
講義をしてくださる、とのことで開かれたセミナーでした。

ちなみにマラウイでは主に一村一品活動について調査されるとのことで
私の配属先のオボップに登録している農民グループを訪れたり
オボップのスタッフに取材をしたりされました。

セミナーでは、フェアトレードや小規模農村開発における
社会学的な影響をテーマに話をしてくださり、
久々に頭をフル回転させて聞いたので
ちょっとオーバーヒート気味です。ああ、脳みそが煮えそう[emoji:e-224]

私は最近、将来的に一村一品アンテナショップの商品を
日本やその他の国にフェアトレード商品として
輸出する可能性はありえるのか?と考えていたため、
とても勉強になりました。

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まずフェアトレードの特徴ですが、
フェアトレードと普通の国際貿易との違いは、
前者は途上国の生産者に有利な
優遇的買い付けシステムである点とのことでした。

つまり、現在の国際貿易システムは途上国の貧しい生産者にとって
不利であり「公正(フェア)ではない」ということから、

1)市場価格の暴落に対するセイフティーネットとしての「最低買い上げ価格保障」
2)生産者が収穫期までを借金せずに暮らせるための「代金の一部前払い」
3)購入側が代金の一部を生産者団体に「社会開発」の原資としてフィードバックする「プレミアム支払い」

の3要素を基本とする優遇的買い付けシステムが
フェアトレードということ。

そして、この優遇的買い付けシステムがあることで
通常は様々なショック(天災、病気、景気変動など)
に対して脆弱な途上国の生産者が、
安心して生産活動に従事できるようになり
貧困削減や社会開発につながる、ということでした。

特に、いままで私が漠然としか認識していなかった
「フェアトレード」の特徴として佐藤さんが挙げられたのは、

“フェアトレード商品は通常より「割高」であることを承知で買う消費者がいて、初めてフェアトレードが成り立つ”

という点でした。
途上国の生産者を守るということは、
購入側に通常の取引以上のコストとリスクを
強いることになるため、最終的に先進国での
販売価格が割高になりがち、になるのだそうです。

日本で「フェアトレード」を知っている消費者が16%(2008年)
だそうで、それからすると「割高」という特徴も
ちゃんと認識してる人ってもっと少ないはず。
「割高」だけど確実に途上国の生産者を守る、
という認識をきちんと持てる販売方法をとると
もっと消費者は増えるんじゃないかな?

佐藤さんがおっしゃった言葉の中に、
国際協力を始める人のきっかけは
「先進国に生まれてしまったという社会的責任」であることが多い、
というのがありました。

確かに、私も最初はそうだったかも!
そして、ときどき心のどこかでこの事をズキッと感じているけど、
何かしようにも手段が分からなかったり環境が許さなかったり、
という人はすごく多いと思います。
フェアトレードは「割高だけどあえて買う」という
国際協力の一手段という認識を広めたら、
募金や寄付のようにもうちょっと一般的な行動につながるのかも。

現状、日本のフェアトレードの市場規模は
ヨーロッパの1/10(70億円)とのことで
日本でフェアトレードが広まらない理由として

・日本の消費者は品質にうるさい
・日本にはチャリティーの伝統がない
・日本では教会の影響力が小さい
・日本は植民地経営の歴史が短い(植民地化してしまったという罪悪感を感じる状況が多くない)

という点があるそうです。

なるほどー。。。
チャリテー、教会、植民地経営など、
社会的な背景の影響がずいぶん大きいなんて!
でも、確かに!

というわけで、日本でフェアトレード商品を売るのは
欧米に比べて難しいことが分かったとともに、
もしやるなら、品質をなるべく良くすることと
「国際協力のために自分も何かしたい」という人々の気持ちを
上手に取り込むことがポイントなのかな、と思いました。

私も日本のフェアトレードの商品を何回か通販で
買ったことはありますが、カタログを見て
異国の香りがしてなんだかカワイイ!と
ちょっと高くても買ったりしてみても、
届いたものは期待より貧相だったり使い心地が悪かったりして、
いくらフェアトレードでも
買っても結局使わなくなるならもったいないや、
と結局リピーターになったことはありませんでした。
友達に聞いても、お店でフェアトレードの物を見かけて
何か買おうかなと思っても品質が悪くて買う気が失せることが多い
という子が何人かいたなあ。

ただ、カタログ販売の場合は消費者の声が聞こえにくいけど、
例えばマラウイの一村一品商品だと、
近くに日本人がたくさんいるので
消費者の意見を集めて→品質改善に活かす、
という試行錯誤はけっこう速く繰り返せる気がします。

というわけで、一村一品商品のフェアトレード販売について
工夫次第では可能性がある、ということが分かって参考になりました。
大事なのは、魅力的な商品開発と、
「割高が国際協力へつながること」を
きちんと日本人消費者へPRすること
かな。

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佐藤さんの講義でフェアトレード以外に印象的だったのは、
貧困削減のためにはどうしたらよいのか?というお話。

まず、おそらくまだ多くの人が認識している
「貧困=カネがない」ではなく、
“「貧困=脆弱性」である”という大前提に立つと、
貧困削減のためには「収入向上」からではなく
「生活改善」から始まるルートを取った方がよい、ということでした。

恥ずかしながら、私も「貧困=カネがない」
のイメージが一番強かった。
ただ、

「貧困=カネがない」ではない

といっても、
貧困は経済的理由によって必要最低限の生活が
できないことを言うことは変わらないけれど、
単純に収入の金額だけでは計れない複合的なもの、
という意味だと思います。

「貧困=脆弱性」

つまり、

「貧困とは様々なショック(天災、病気、景気変動など)が起きた時に一気に生活基盤が崩れ去るかもしれない脆弱性を指す」

という概念は最近出てきたもののようで、
1日1ドル以下で生活している人を「絶対的貧困」と
呼んだり(2000年度『人間開発白書』)、
人類の半分が1日2ドル未満で暮らす貧困層だと言ったり、
「収入」は「貧困」を判断する分かりやすい指標として
今でも一般的に活用されています。

そんななか、さっきの“貧困削減のためには「収入向上」から
ではなく「生活改善」から始まるルートを取った方がよい”
という話に戻ると、

「貧困削減をしようとして途上国の人の収入向上をしても、自動的には脆弱性改善にはつながらない。個人の収入向上は必ずしも地域の貧困削減にはつながらない」

のだそうです。けれど、

「生活を改善をすることで生活の脆弱性を補うことができ、貧困削減につながる」

とのこと。
ただ、生活改善は生活の持続性を高めるけれど
大きな飛躍はできないので、外的な変化がないと
現状維持以上には広がらないという特徴もあるそう。

ここで参考にできるのが、日本の発展の歴史。

戦後日本(1945~60年代)では貧困改善のために
「生活改善運動」が行なわれ、
農村の人々の栄養改善や、機械化以前の農繁期の過重労働の改善、
布団干しによる健康改善などなど、
ものすごーく生活に密着したレベルで
こつこつ少しずつ農民の生活が改善されていったそうです。

この努力によって日本国民全体の生活が安定しだした頃に
ちょうど高度経済成長(1955~1973年)が来て、
その成果を急速かつかなり均等に農村の隅々まで届けるための
下ごしらえを生活改善運動が担った、
と考えることができるそうです。

そうすると一つの仮説として、
「成長に先立つ生活改善の必要性」が出てくるとのことで、
佐藤さんによると、今アフリカの経済は少しずつだけど
右肩上がりだと推測できるので、
今の生活改善は将来の飛躍の準備になるといえるのでは?
ということでした。

ほほーう!!
ただし、成果が本当に目に見えて出てくるまでには
だいたい50年くらいかかるそう。
でも、今は恐ろしく地道~な地味~な活動に見えても
50年後に芽が出るなら無意味じゃないじゃん!それなら頑張れる!
なんだかスケールが違う、鳥肌ものの話が聞けて
アドレナリン出まくりな一時でした!

派遣前の技術補完研修でも
日本の生活改善の歴史から学ぶという講義があって、
当時の生活改良普及員の方達がどんな取り組みを
したかという資料をもらっていました。

きっとマラウイでも使えるヒントがたくさん眠ってるはず!
さっそく読み返してみようと思います。

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